「チームメイトとまったく同じ練習メニューをこなしているのに、なぜか自分だけ膝や肘を痛めてしまう」
「休むと痛みが引くけれど、練習を再開するとまたすぐに同じ場所が痛くなる」
スポーツを頑張っている学生やアスリート、あるいは趣味でランニングなどを楽しまれている方の中で、このような悩みを抱えている方は決して少なくありません。
実は、ケガをしやすい人とそうでない人の差は、「根性」や「純粋な筋力の違い」だけではなく、体全体の関節が連動して動く「順番のズレ」が大きく関係している可能性があります。
この記事では、国家資格者(Stylefulness代表)が、特定の場所に負担が集中して体が悲鳴を上げる「スポーツ障害」のメカニズムについて、スポーツ医学の「運動連鎖」という視点から分かりやすく解説します。
体はリレーのように力を繋いでいる「運動連鎖」とは何ですか?
人間がボールを投げたり、地面を蹴って走ったりするとき、一つの関節や筋肉だけでそのパワーを生み出しているわけではありません。足元から作られた力を、順番に上の関節へとバトンタッチしていく仕組みのことです。

例えば、野球のピッチングやテニスのサーブを例に挙げると、体の中では以下のようなリレーが行われています。
このように、複数の関節がタイミングよくバトンを繋いでいく仕組みを、スポーツ医学やバイオメカニクスの分野では「運動連鎖(キネティック・チェーン:Kinetic Chain)」と呼びます。
なぜ、同じ練習をしているのに特定の場所(膝や肘)が壊れてしまうのでしょうか?
過去のケガや姿勢の悪化によって「動きをサボっている関節」があると、バトンリレーが途切れ、その分の負担を他の関節が身代わりとなって引き受けて「過労」になってしまうからです。
運動連鎖がスムーズにいっているときは、全身に力が分散されるため、特定の関節だけに無理な負担がかかることはありません。しかし、人間の体の中で最も大きく動くべき関節である「股関節(こかんせつ)」や「肩甲骨(けんこうこつ)」がガチガチに固まってしまっていると、悲劇が起きます。
① 股関節がサボると「膝」が壊れる
走る、ジャンプする、方向転換するといった動作の際、本来なら股関節が深く曲がることで大きな衝撃を吸収します。しかし、股関節が硬い人は、その下にある「膝(ひざ)」を本来の可動域以上に無理にねじったり曲げたりして動きを補おうとします。その結果、膝の靭帯や半月板に過度なストレスがかかり、痛みの引き金となることがあります。

② 肩甲骨がサボると「肘や肩」が壊れる
テニスのスマッシュや野球の投球で、肩甲骨が背中の上で滑らかに動かないと、どうなるでしょうか。ボールに強い威力を出すために「肘(ひじ)」や「肩の前側」にある小さな筋肉だけで、無理に腕を振り抜くことになります。これが、いわゆる「野球肘」や「テニス肘」と呼ばれる、末梢の関節にストレスが集中して起きる典型的なパターンです。
繰り返すケガを防ぐために、私たちはどうアプローチすべきですか?
痛む場所(結果)を休めるだけでなく、バトンリレーを途切れさせている「真犯人(サボっている関節)」を見つけ出し、体全体の連動性を取り戻すことが必要です。
スポーツでどこかを痛めたとき、痛んでいる場所(膝や肘など)にシップを貼ったり、そこだけをマッサージしたりして安静にすれば、一時的に痛みは落ち着きます。しかし、根本的な原因である「股関節や肩甲骨の硬さ」がそのまま残っていれば、競技に復帰した瞬間にまた同じ場所に過労が生じ、ケガを再発してしまいます。
※ただし、スポーツによる急性の痛みや激しい腫れには、骨折や疲労骨折、靭帯の断裂など、早急な固定や手術が必要なケースも数多く存在します。痛みが強い場合や長引く場合は決して自己判断せず、まずは整形外科などの専門医療機関を受診し、画像診断を受けることが大前提です。
自分の体の「関節のリレー」が正しく繋がっているかを客観的に見直すことは、ケガを未然に防ぎ、持っているパフォーマンスを最大限に発揮するための、非常に合理的で科学的なアプローチになります。
FAQ(よくあるご質問)
- 自分の「運動連鎖」が崩れているかどうか、簡単に見分ける方法はありますか?
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「いつも右の膝ばかり痛くなる」「休むと治るが、練習すると必ず同じ場所が痛む」といった、特定の局所的なケガを何度も繰り返している場合は、ほぼ間違いなく運動連鎖の崩れ(どこかの関節の代償動作)が起きています。また、前屈で手が床に届かない、背中で両手をつなげないなど、極端に硬い関節がある場合も注意が必要です。
- ケガをしないために、まずは筋トレでパワーをつけるべきでしょうか?
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筋力(エンジン)を大きくする前に、関節の連動性(歯車)を整えることが先決です。関節の動きが悪い状態で、筋力トレーニングでパワーだけを大きくしてしまうと、かえって過労している関節(膝や肘)にさらに強大な負担がかかり、ケガのリスクを高めてしまう恐れがあります。
- 痛い部分(例えば肘や膝)を一生懸命ストレッチすれば治りますか?
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痛みが強く出ている部分は、すでに「過剰に引き伸ばされたり、動きすぎたりして炎症が起きている(過労状態)」ことが多いため、無理にストレッチをすると悪化する危険があります。アプローチすべきは、痛い場所そのものではなく、その上下にある「硬くて動いていない関節(股関節や肩や肩甲骨)」のストレッチです。
参考文献・引用文献
- Steindler, A. (1955). Kinesiology of the Human Body under Normal and Pathological Conditions. Charles C. Thomas. (アーサー・スティーンドラー博士によって提唱された「キネティック・チェーン(Kinetic Chain)」の理論。身体を機能的に連結されたセグメントの連鎖として捉え、現代のスポーツ整形外科学・理学療法学の絶対的な基礎基盤となっている文献)
- Kibler, W. B. (1998). “The role of the scapula in athletic shoulder function.” The American Journal of Sports Medicine, 26(2), 325-337. (ベン・キブラー博士らによる研究。投球動作などにおいて、肩甲骨の可動性不全や股関節の柔軟性低下が、エネルギー転送のロスを招き、末梢の肩や肘への過負荷(局所的オーバーユース)を引き起こすというバイオメカニクス的実証データ)
