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自律神経はシーソーじゃない?「ゾーン」と「マインドフルネス」の科学的な正体を専門家が解説します

「自律神経は、交感神経と副交感神経のシーソーのようなもので、どちらかが上がればどちらかが下がる」

テレビや雑誌でよく見かけるこの説明ですが、実は現代の生理学・脳科学の観点からは「少し古いイメージ」と言わざるを得ません。

オハイオ州立大学のBerntson博士らによる著名な生理学研究(1991年)において、「自律神経は単なるシーソーではなく、交感神経(アクセル)と副交感神経(ブレーキ)の両方が『同時に強く働く(共活性:Co-activation)』という状態が存在する」ことが実証され、自律神経の常識が大きく覆りました。

この記事では、国家資格者(Stylefulness代表)が、自律神経の本当のイメージ(車のエンジン)と、一流アスリートが体験する「ゾーン」、そして座禅を組まなくても日常で作れる「マインドフルネス」の科学的なメカニズムを分かりやすく解説します。

目次

自律神経はシーソーではない?「車のアクセルとブレーキ」に例えられる理由とは?

交感神経と副交感神経は、ひとつのスイッチで切り替わるのではなく、それぞれが独立したシステムであり「アクセルを踏みながら、同時にブレーキも強く踏む」という高度な運転技術が可能だからです。

昔は「活動する時(交感神経)はリラックス(副交感神経)がゼロになる」という、ギッコンバッタンというシーソーのような関係だと思われていました。しかし最新の医学(自律神経空間モデルなど)では、この2つは「車」に例えられます。

  • 交感神経(アクセル) 心拍数を上げ、体を興奮・戦闘モードにする。
  • 副交感神経(ブレーキ) 心拍数を落ち着かせ、体をリラックス・修復モードにする。

人間は、アクセルだけをベタ踏みするとパニックになり、ブレーキだけを踏むと眠ってしまいます。しかし、プロのレーサーのように「アクセルを全開に踏み込みながら、同時にブレーキも絶妙にコントロールしてカーブを曲がる」ことで、人間のパフォーマンスは極限まで高まることが分かっています。

一流アスリートが経験する「ゾーン(フロー)」とは、自律神経的にどんな状態ですか?

まさに「アクセル(交感神経)が限界まで全開でありながら、同時に強力なブレーキ(副交感神経)がガッチリと効いて、究極の冷静さを保っている状態(共活性)」のことです。

スポーツ選手が「ボールが止まって見えた」「周りの音が全く聞こえなくなった」と語る究極の集中状態を、スポーツ心理学では「ゾーン」や「フロー状態」と呼びます。

この時、選手の体の中では交感神経(アクセル)が極限まで高まり、とてつもないパワーと反応速度を生み出しています。普通の人ならここで過緊張の「あがり」の状態になり、体がガチガチに固まってしまいます。

しかし、一流のアスリートはここで同時に「副交感神経(ブレーキ)」も極限まで高めることができます。強烈な興奮状態の中にあっても、心臓の鼓動は落ち着き、脳は氷のように冷静という矛盾した状態が生まれます。これが「ゾーン」の自律神経的な正体なのです。

「マインドフルネス(マインドフルな状態)」とは、脳に何が起きている状態ですか?

過去の後悔や未来の不安をさまよう脳のアイドリング回路(DMN)が完全にストップし、「今この瞬間の体の感覚や作業だけ」に100%の意識が向いている、究極にクリアな状態のことです。

イェール大学のBrewer博士らの有名な脳科学研究(2011年)により、瞑想などでマインドフルネスな状態に入ると、脳のエネルギーを大量に浪費する「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という雑念の回路の活動がピタッと止まることがMRI映像で証明されています。

マインドフルネスとは「無になること」ではありません。「今、自分は呼吸をしている」「今、足の裏が地面に触れている」という『今ここにある現実(五感)』だけにフォーカスしている状態です。この時、自律神経のブレーキ(副交感神経)が優位になり、脳の疲労が驚異的なスピードで回復していきます。

座って瞑想しなくても、日常の中で「マインドフルな脳」を作れる活動はありますか?

はい、たくさんあります。手先や五感に集中せざるを得ない「料理の千切り」「サウナ(温冷交代浴)」「書道や楽器の演奏」などが、日常で脳をマインドフルにする最強のアプローチです。

「マインドフルネス=目を閉じて座禅を組む」というイメージが強いですが、実は私たちの日常の活動でも、脳を同じようなクリアな状態に切り替えることができます。ポイントは「過去や未来の悩みを考える余裕がないほど、今この瞬間の『感覚』に没入せざるを得ない状態」を作ることです。

料理(千切りなど)

「トントントン」という一定のリズミカルな音と、指先を切らないようにキャベツに集中する緊張感が、脳の雑念を強制終了させます。

サウナ(ととのう)

熱いサウナと冷たい水風呂という強烈な「温度感覚」に襲われることで、嫌でも「今、自分の体が熱い・冷たい」という感覚だけに100%意識が向き、脳のDMN(雑念)が強制的にオフになります。

手作業(書道、編み物、楽器の演奏)

指先の繊細なコントロールと「視覚・聴覚」への集中がピタッと一致した時、人は自然とフロー状態(マインドフルネスの一種)に入ります。

まとめ:自律神経は「鍛える・コントロールする」ことができます

「自律神経が乱れているから仕方ない」と諦める必要はありません。自律神経はシーソーのように勝手に揺れ動くものではなく、あなたの活動や環境への意識の向け方次第で「アクセル」も「ブレーキ」も意図的に踏み込むことができる、素晴らしいエンジンです。

仕事で行き詰まった時や、脳が疲れて嫌なことばかり考えてしまう時は、一度パソコンを閉じて「野菜の千切り」をしてみたり、「サウナ」に行ってみたりしてください。五感に集中して脳の雑念(DMN)を強制終了させることが、ストレス社会を生き抜くための最高のメンテナンス法です。自律神経のベースの体力を底上げしたい方は、ぜひ当院での身体のケアもご活用ください。

FAQ(よくあるご質問)

自律神経の「アクセル」と「ブレーキ」が、両方とも極端に下がってしまうとどうなりますか?

医学的には「共抑制(Coinhibition)」と呼ばれる状態で、いわゆる「燃え尽き症候群」や「重度のうつ状態」「慢性疲労症候群」に陥ります。戦うエネルギー(交感神経)も湧かず、かといってリラックスして回復する力(副交感神経)もない、非常に危険で辛い状態ですので、専門医の受診と長期間の休息が必要です。

スポーツで「ゾーン」に入るために、普段からできるトレーニングはありますか?

最も重要なのは「副交感神経(ブレーキ)のベースの力を高めておくこと」です。現代人は嫌でも交感神経(アクセル)が高ぶりやすいため、いざという時に強力なブレーキを踏めるよう、日常的に「長く息を吐く深呼吸」や「39〜40度の湯船での入浴」で副交感神経の筋トレをしておくことが、ゾーンへの入場券になります。

歩きながらマインドフルネス状態を作ることはできますか?

はい、可能です。「歩行瞑想(ウォーキング・マインドフルネス)」という立派なメソッドがあります。音楽などを聴かず、足の裏が地面に触れる感覚、足の筋肉が伸び縮みする感覚、頬に当たる風の温度など、「歩いている時の体の感覚」だけに意識を集中させると、座って瞑想するのと同じように脳疲労が劇的に回復します。

参考文献・引用文献

  • Berntson, G. G., Cacioppo, J. T., & Quigley, K. S. (1991). “Autonomic space and psychophysiological response.” Psychophysiology, 28(3), 324-339. (自律神経の交感神経と副交感神経が単純な拮抗関係(シーソー)ではなく、独立して機能し、同時に活性化(共活性)し得ることを提唱した「自律神経空間モデル」の歴史的論文)

Brewer, J. A., Worhunsky, P. D., Gray, J. R., Tang, Y. Y., Weber, J., & Kober, H. (2011). “Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(50), 20254-20259. (瞑想によるマインドフルネス状態が、脳のアイドリング回路であるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活動を有意に低下させることをfMRIを用いて証明した画期的な脳科学研究)

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